AI LAB
Sus8システム
2026/09/16
AIサービスの淘汰が示す次の競争軸――Relay、Siri、Recall、AI端末の失速から企業が学ぶこと
Relayの終了が映す「単体AIサービス」の苦境
メール処理やタスク管理をAIエージェントで自動化していたRelayは、2026年9月14日にサービスを全面終了しました。Relayは、複数の業務アプリを連携させるZapierの代替を掲げ、利用者の指示に応じて一連の作業を進められる点を特徴としていました。しかし、OpenAIやGoogleをはじめとする大手プラットフォームが、同様の自動化機能を自社製品へ組み込むようになると、独立したサービスとして選ばれる理由を保てなくなりました。



Relayの事例が突きつけるのは、機能の優秀さだけでは事業を守れないという現実です。ある自動化機能が利用者に評価されても、日常的に使うメール、文書作成、チャット、クラウドストレージの中へ同等機能が追加されれば、別サービスを契約して接続する手間は相対的に重くなります。導入担当者にとっても、追加の費用、権限管理、監査、従業員教育を正当化しにくくなるでしょう。

S&P Global Market Intelligenceによると、企業が進めるAI施策の約42%は最終的に中止されています。理由には資金不足、技術上の問題、競争、規模拡大の難しさ、弱い利用需要などが含まれます。これはAIそのものへの需要が消えたことを意味しません。むしろ、AI機能が既存製品へ急速に吸収されるなかで、誰が顧客との接点を持ち、継続利用の流れを押さえられるかが問われています。AIスタートアップを評価する際は、モデル性能だけでなく、既存プラットフォームに模倣された後にも残る価値を確認する必要があります。
OpenAIの試行錯誤に見る統合戦略の難しさ
大手企業であっても、AI製品の設計や統合に失敗しないわけではありません。OpenAIは2026年7月9日、ChatGPTアプリ内で「Chat」「Codex」「Work」などの体験をまとめ、従来型の画面を「ChatGPT Classic」と呼ぶ構成へ変更しました。ところが、利用者からは分かりにくく雑然としているとの批判が寄せられ、ほどなく従来に近いインターフェースへ戻しています。



ここで問題になったのは、機能数ではなく、利用者が目的の操作へ迷わず到達できるかどうかでした。チャット、開発支援、業務機能を一つの入口へ集約すれば、製品間の移動は減らせます。その反面、各機能の違いや使い分けが画面から読み取れなければ、慣れ親しんだ操作を壊す結果になりかねません。統合は製品ポートフォリオを単純にする手段ですが、利用体験まで自動的に単純になるわけではないのです。

OpenAIは別の形でも統合を進めています。AI搭載ブラウザーとして提供されたChatGPT Atlasは1年未満で終了し、有用な機能はChatGPTへ取り込まれました。ウェブ上で利用者に代わって作業するOperatorも同様に統合され、画像生成についてもChatGPT内で直接扱う方向が強まり、DALL-Eを独立した利用先として使う場面は縮小しています。動画共有プラットフォームのSoraは、運用コストと利用継続の課題を抱え、2026年3月に終了しました。

これらを一律に失敗とみなすと、重要な違いを見落とします。独立アプリの終了後も中核機能が残るケースは、需要がなかったというより、提供形態が適切でなかった可能性を示します。企業がAI製品を整理する場合にも、サービス名の存廃だけでなく、利用されていた機能、顧客データ、操作導線がどこへ移ったのかを見るべきでしょう。
SiriとRecallが示した「約束」と信頼のずれ
Appleが2024年にApple Intelligenceを発表した際、刷新されたSiriは目玉機能の一つでした。アプリをまたいだ状況を把握し、文脈を理解して作業を実行するという構想です。しかし、技術上の問題や不具合などを理由に提供延期が繰り返されました。この遅れは、iPhone 16のAI機能に関する販売上の説明をめぐる訴えにも影響し、最終的に2億5,000万ドルの和解につながりました。



新しいSiriは2026年7月にiOS 27のベータ版へ登場し、同年9月から英語利用者を対象に展開が始まりました。他言語への対応も予定されています。ここで企業が注意したいのは、将来の機能を強く打ち出すほど、開発上の遅れが単なるスケジュール変更では済まなくなる点です。購入判断に影響する説明であれば、提供範囲、対象言語、利用条件、実装時期を区別して伝える必要があります。

MicrosoftのRecallも、期待と懸念の差が表面化した例です。RecallはWindows PCの画面を定期的に記録し、過去の操作を検索できる「写真のような記憶」として2024年の開発者会議Buildで発表されました。しかし、パスワード、私的なメッセージ、金融情報などが検索可能な履歴へ含まれ得るとして、プライバシーとセキュリティへの批判が直ちに起きました。Microsoftは提供を約1年延期して保護策を見直しましたが、研究者が保存データを抽出・表示するツールを作成したことで、懸念が再燃しています。

両社の事例に共通するのは、AIの能力そのものより、説明責任と信頼が導入速度を左右したことです。高度な機能を実装できても、利用者が何を記録され、どこで処理され、どのように停止できるかを理解できなければ、業務利用には進みにくいでしょう。
Notion Mail、Huxe、Yuppに共通する流通経路の壁
Notion Mailは2025年4月、受信箱の整理や自動化をAIで支援するメール製品として登場しました。ところが、利用者はメール専用製品の機能ではなく、別のAIエージェントを使って受信箱を処理する傾向を見せました。その結果、Notion Mailは2026年9月22日に終了する予定です。利用者が求めていたのはAIメールそのものではなく、メールを含む複数の作業を横断して処理できる代理機能だったと読み取れます。



GoogleのNotebookLMに携わった元開発者らが手がけたHuxeは、文章情報を会話形式のポッドキャスト風音声へ変換するアプリでした。しかし、大規模な利用者基盤を持つプラットフォームが似た体験を提供し始めたことなどから、2026年5月に終了しています。SpotifyもAIを活用した音声機能を拡充しており、音声を日常的に聴く場所をすでに持つ企業が、利用者への到達という面で有利になりました。

Yuppは数百種類のAIモデルの回答を並べて比較し、投票した利用者が暗号資産を獲得できる無料サービスでした。最盛期にはOpenAI、Google、Anthropicなどのモデルを含む800種類以上を試せましたが、創業者によれば、事業を維持できるほど強いプロダクト・マーケット・フィットを確立できず、2026年3月に終了しました。選択肢の多さは魅力になりますが、利用者が繰り返し訪れる具体的な目的や、対価を支払う理由とは別物です。

3つのサービスは用途こそ異なりますが、優れた変換技術や豊富なモデル一覧よりも、利用者が普段いる場所へ自然に入れることのほうが継続性を左右した点で重なります。B2B市場では、既存の認証基盤や業務データへ安全に接続できるか、日々の作業時間を測定可能な形で減らせるかまで含めて、製品価値を設計する必要があります。
Humane AI PinとRabbit R1が突きつけたハードウェアの現実
Humane AI Pinは、スマートフォンではなく身に着ける端末からAIを利用するという構想で注目されました。Humaneは投資家から2億3,000万ドルを調達しましたが、製品は性能面で苦戦しました。充電ケースにバッテリー発火の可能性があるとして、利用停止を顧客へ呼びかける事態も重なっています。2025年2月にはAI Pin事業を終了し、同社資産の大部分がHPに1億1,600万ドルで買収されました。



AIハードウェアには、ソフトウェアだけでは避けられる制約があります。応答速度や認識精度に加えて、発熱、電池持続時間、通信環境、装着感、修理、回収まで同時に成立させなければなりません。クラウド側のモデルを更新できても、端末の物理的な欠点を即座に直すことは困難です。安全上の問題が生じれば、AI体験への不満を超えて、製品全体の継続を脅かします。

Rabbit R1も、2024年1月のCESで大きな注目を集めたAI端末です。利用者に代わって作業するコンパニオンとして披露され、発売直後には10万台を販売したとRabbitは説明しました。ただし、初期レビューでは未完成と評され、動作の不安定さや利用可能な連携先の少なさが指摘されています。売れ行きの強さと、日常的に使える製品であることが一致しなかった例といえます。

RabbitはR1を終了しておらず、エージェント型の作業を実行するコンピューター操作端末として更新を続けています。携帯型のバイブコーディング端末を目指す「Project Cyberdeck」も発表しました。同社の今後を判断する際には、新しい構想の目新しさだけでなく、既存端末で代替できない作業、安定した連携機能、購入後の継続利用が示されるかを見極める必要があるでしょう。
利用者数だけでは測れない事業継続性
AIキャラクターを作成し、ロールプレイや物語づくりを楽しめたFiggs AIは、2023年から2024年まで運営されました。利用者は100万人を超えたとされていますが、無料提供を維持するコストが高くなり、開発者はサービスを終了しました。大きな利用者数は需要の存在を示す一方で、収益性や計算資源の負担まで解決する指標ではありません。



生成AIサービスでは、利用されるほど推論処理が増え、費用も積み上がる場合があります。一般的なソフトウェアで期待される規模の経済が、同じ形で働くとは限りません。無料利用者を増やしてから収益化する戦略も、利用頻度の高い生成機能では資金消費を加速させる可能性があります。登録者数や累計生成回数が伸びていても、一人当たりの提供コスト、継続率、有料転換率を切り離して評価するのは危険です。

企業内のAI施策でも事情は似ています。試験導入時には少人数が便利に使えても、全社展開では推論費用、問い合わせ対応、データ管理、監査、外部サービスとの接続維持が必要になります。S&P Global Market Intelligenceが示した約42%という中止比率は、実証実験で動作することと、組織全体で継続運用できることの間に隔たりがあると理解する材料になります。

評価指標には利用者数だけでなく、完了した業務件数、修正に要した時間、失敗時の復旧負担、従来手段との差額を含めるべきです。利用が多いのに利益が出ないサービスと、利用者は限定的でも高い業務価値を生むサービスでは、取るべき戦略が異なります。人気を追う前に、価値が生まれる単位と費用が発生する単位をそろえて確認することが欠かせません。
日本企業がAI導入前に確認したい四つの条件
一連の終了、延期、方向転換から得られる中心的な教訓は、「AIを搭載していること」を導入理由にしないことです。技術が新しくても、既存製品へ容易に吸収される機能、利用導線から離れた専用アプリ、運用費を回収できない無料サービスは長期利用に向きません。調達時には現在の機能表だけでなく、提供企業と自社の双方が運用を続けられる条件を確かめる必要があります。



確認したい条件は、業務価値、継続性、統合性、統制可能性の四つです。業務価値では、短縮できる時間や減らせる作業を具体化します。継続性では、料金体系、計算コストの影響、サービス終了時のデータ返却方法を確認します。統合性については、既存の業務ツール、認証、権限管理と無理なく接続できるかが焦点です。統制可能性では、記録される情報、保存期間、管理者による停止や監査の方法を検討します。

大手プラットフォームの機能を選べば必ず安全というわけでもありません。OpenAIの画面変更やMicrosoft Recallの経緯が示すように、大手企業も利用体験やプライバシー設計を修正します。反対に、小規模な専業サービスでも、特定業務への深い理解、独自データ、規制対応、手厚い導入支援があれば、汎用機能との差を保てる可能性があります。企業規模ではなく、代替されにくい価値と撤退時の備えを見比べるべきです。

導入を検討しているAIサービスがあるなら、契約前に小規模な対象業務を一つ選び、成功指標と中止条件を同時に決めてください。データを書き出せるか、別製品へ移行できるか、人の作業へ戻せるかも試しておくとよいでしょう。AIサービスの淘汰が続く環境では、採用する能力と同じくらい、依存しすぎずに撤退できる設計が企業の選択肢を守ります。
Back