AI LAB
Sus8システム
2026/10/23
Oracleが描くAI時代のデータ基盤、焦点はコスト削減から「信頼できる本番運用」へ
データベース刷新の評価軸を変えるAI
データベースの刷新は、長らく運用効率の改善やインフラ費用の削減を目的として進められてきました。ところが、生成AIを業務へ組み込む企業が増えるにつれ、それだけでは投資効果を十分に測れなくなりつつあります。theCUBE Researchが示した中心的な論点は、整備されたデータ基盤の上でAIを繰り返し実行し、複数の業務へ広げられるかどうかです。単発の実証実験を成功させることより、安定した本番運用へ移行できる仕組みが問われています。



企業内のデータが部門別のシステムや異なるクラウドに分散していると、必要な情報を集めるだけで時間がかかります。データの定義やアクセス権限がそろっていなければ、AIが参照した情報の妥当性を確認する作業も複雑になります。この状態は一般に「断片化したデータ環境」と捉えられ、開発速度だけでなく、セキュリティやガバナンスの一貫性にも影響します。

theCUBE Researchのデイブ・ベランテ氏は、Oracleユーザーが考えるべき問いとして、単にインフラ費用を下げるのか、それともAIを反復実行できる基盤をつくるのかという違いを挙げています。自動化や標準化によって専門人材を定型的な管理作業から解放できれば、その時間を新しいユースケースの設計や改善へ振り向けられます。データベース刷新は依然としてIT部門の判断事項ですが、営業、製造、管理部門などを含む全社のAI活用速度を左右する「AI対応力」の判断にもなっているという見方です。

ここでの要点は、新しい製品へ置き換えること自体ではありません。データ、AI、アプリケーション開発を分断せず、試行から本番展開まで同じ統制の下で回せる状態をつくれるかが焦点です。2026年10月28日に米ラスベガスで開かれるOracle AI Worldでは、この考え方が製品機能としてどこまで具体化されるのかが注目されます。
後付けの制限だけでは守れないAIの信頼性
生成AIの出力を参考情報として読む場合と、AIエージェントが業務システムを操作する場合では、求められる安全性が異なります。AIエージェントとは、指示に応じて情報を探すだけでなく、アプリケーションを組み立てたり、許可された範囲で処理を実行したりする仕組みです。企業データへ接続する以上、回答の正確性に加えて、アクセス制御、処理履歴、更新時の安全性まで考えなければなりません。



Oracleでミッションクリティカル・データベース技術を担当するエグゼクティブ・バイスプレジデント、フアン・ロアイザ氏は、既存のアーキテクチャにAIを載せ、後からガードレールを加えるだけでは不十分だと説明しています。同社が目指すのは、AI、データ、アプリケーション開発を一体として設計し、技術スタック全体で信頼性を確保する構成です。ガードレールを否定しているというより、それだけに安全性を依存できないという主張だと理解できます。

AIシステムは、機密性の高い企業データへ到達する新たな経路にもなります。Oracleは人工知能の利用拡大に伴うセキュリティ課題に対し、データベース保護、パッチ適用、テスト、ライフサイクル管理を組み合わせた戦略を示しています。Oracle Database担当シニア・バイスプレジデントのアルパン・シャー氏によれば、データ層からアプリケーション層まで機能を設計し、AIの試作を信頼できる大規模アプリケーションへ移行させることが、イベントで扱う重点領域になります。

企業が確認すべきなのは、禁止事項を設定できるかだけではありません。AIがどのデータを参照し、どの権限で処理し、基盤の更新後も同じ統制を維持できるかまで追跡できる必要があります。AI導入とセキュリティ対策を別々の案件として進めると、両者の境界に管理上の空白が生まれかねません。Oracleの提案は、その空白をデータ基盤と開発・運用環境の統合によって狭めようとするものです。
分析基盤から意思決定の中枢へ変わるレイクハウス
Oracleが力を入れるもう一つの領域が、Autonomous AI Lakehouseです。これは同社のAutonomous Databaseの機能と、オープンなテーブル形式であるApache Icebergを組み合わせ、主要なクラウドにまたがる分析基盤を構成するものです。Apache Icebergは、大規模なデータをテーブルとして扱いやすくするための形式であり、特定の処理エンジンだけに閉じないデータ利用を支える役割があります。



レイクハウスは、さまざまな形式のデータを蓄積するデータレイクと、整理されたデータを高速に分析するデータウェアハウスの性質を組み合わせる考え方です。従来は分析処理の置き場所として語られることが多かったものの、生成AIでは学習・検索・推論に使うデータを継続的に整える必要があります。そのため、分析結果を提示する場所から、AIが判断材料を得るための共通基盤へと役割が広がっています。

Oracle Autonomous AI Lakehouse担当シニア・バイスプレジデントのニプン・アガルワル氏は、レイクハウスが分析プラットフォームから企業AIの「意思決定の背骨」へ変化していると説明しています。OracleはOracle AI Worldで複数の新機能を公開する予定ですが、個々の仕様は現時点で詳しく示されていません。発表を見る際は、機能数だけでなく、分析とAIのワークロードが同じデータをどのように共有し、権限やデータ品質をどう維持するのかを確認する必要があります。

複数クラウドを利用する企業にとっては、データをどこへ集約するかだけが問題ではありません。既存の保管場所を活用しながら、一貫した定義と統制で利用できるかが実務上の論点になります。レイクハウスを意思決定基盤として使うのであれば、データの鮮度、出所、アクセス範囲を説明できなければなりません。オープンな形式との連携が、相互運用性とガバナンスの両立にどう寄与するのかが発表の見どころです。
Autonomous AI Databaseが担う運用の標準化
Autonomous AI Databaseは、機械学習とAIを利用して、管理、性能調整、パッチ適用、セキュリティ対応を自動化するクラウド型データプラットフォームです。トランザクション処理と分析処理の両方に対応し、異なる種類のデータを扱うマルチモーダルなデータ管理も提供します。AIアプリケーションだけでなく、その下で日常的に発生するデータベース運用を標準化する位置付けです。



展開先はOracle Cloud Infrastructureに限られません。Oracleが管理するサービスを通じて、Amazon Web Services、Microsoft Azure、Google Cloudでも利用できる構成が示されています。企業がすでに複数のクラウドを採用している場合、アプリケーションの配置を全面的に変えずに、データベース運用の共通化を検討できる点が特徴になります。ただし、利用できる機能や運用条件は構成によって確認する必要があります。

Autonomous AI Database技術担当エグゼクティブ・バイスプレジデントのチェティン・オズビュトゥン氏は、大規模言語モデルと企業データの接続方法だけを見ていると、AIアプリケーションの全体像を捉え損なうと指摘しています。検索拡張生成などのアプリケーション側の仕組みが整っていても、参照先のデータが分散し、更新や権限管理が不統一であれば、本番環境で安定して繰り返すことは難しくなります。AIの性能をモデルだけの問題として扱わず、データ運用を含めて設計する必要があります。

自動化には、人を不要にするというより、担当者が個別環境の定型作業へ費やす時間を減らす狙いがあります。パッチや構成管理を共通化できれば、専門チームはデータ品質、ガバナンス、業務要件との整合といった判断を伴う仕事へ集中しやすくなるでしょう。Oracleが掲げるAI対応基盤の価値は、単一のAI機能よりも、こうした運用を継続的に支えられるかどうかで評価するのが適切です。
APEXlangがつなぐコーディングAIと業務アプリ
AIに業務アプリケーションを作らせる場合、自然言語で要望を伝えるだけでは、生成結果を安全な実行環境へ移す部分が課題になります。画面、データ項目、処理、権限などの定義が曖昧なままでは、出力を検証しにくく、修正のたびに挙動が変わる可能性もあります。Oracleが導入したAPEXlangは、この間を埋めるための、人が読めるアプリケーション定義言語です。



従来のローコード開発では、画面上の操作によって設定していたプロパティを、APEXlangでは正式な文法を持つ言語として記述し、コンパイルできると説明されています。CodexやClaudeなどのコーディングエージェントに作りたいアプリケーションを指示すると、エージェントがAPEXlangを生成する構想です。Oracleは実行環境、セキュリティ、アプリケーションのライフサイクルを管理します。

この仕組みの意味は、AIがコードを生成できることだけではありません。生成物が構造化された形式になれば、人や別のツールが内容を確認しやすくなり、変更点も追跡しやすくなります。自由度の高いコード生成と、業務システムに必要な統制の間に、共通の定義層を置く発想です。ただし、どの要件まで自動生成できるのか、生成された定義を誰が承認するのか、既存システムとどう接続するのかは、実際の採用時に整理しなければなりません。

日本企業が試す場合は、いきなり複雑な基幹処理を対象にするより、入出力と承認責任を明確にできる用途から検証する方法が考えられます。評価対象には開発時間だけでなく、生成結果の再現性、レビューのしやすさ、権限設定、変更後の保守性も含めるべきです。AIによる開発速度と企業向け運用の規律を両立できるかが、APEXlangを見るうえでの焦点になります。
Exadata VM Live Migrationが支える継続運用
AIや分析を業務の中核へ組み込むほど、データベースを止めにくくなります。Oracleは、高可用性を重視するExadataサービスをAI用途や設置場所の条件が厳しい用途へ広げてきました。その中で技術的な課題になっていたのが、Remote Direct Memory Access、略してRDMAを使用するデータベース仮想マシンのライブ移行です。



RDMAは、サーバー間で低遅延のデータ転送を行うために使われる技術です。高速な接続を保ったまま、稼働中の仮想マシンを別のホストへ移すことは容易ではありませんでした。Oracleは2026年6月、データベースを稼働させた状態でホスト間を移動できるExadata VM Live Migrationを発表しています。アクティブなデータベース処理とRDMA接続を維持したまま移行できると説明しています。

Oracleでソフトウェア開発を担当するグループ・バイスプレジデントのジア・シー氏によれば、Oracle AI Worldではこの機能がより詳しく紹介される予定です。企業側にとっての意味は、単なるサーバー移動の利便性にとどまりません。基盤の保守や配置変更が必要になった際も、業務処理を継続しながら対応できる選択肢が増えれば、AIを含む常時稼働型ワークロードの運用計画を立てやすくなります。

ただし、ライブ移行機能だけで可用性のすべてが決まるわけではありません。障害時の切り替え、バックアップ、データ整合性、ネットワーク構成、運用手順を含めた設計が必要です。発表内容を評価するときは、対応する構成や前提条件、移行中の性能、管理方法がどこまで示されるかを見るべきでしょう。AI活用を支える基盤では、モデルの新機能と同じくらい、止めずに保守できる能力が本番運用の現実性を左右します。
日本企業が刷新計画へ組み込むべき三つの視点
Oracleの一連の説明から読み取れるのは、データベース刷新を製品更新だけで評価しない姿勢です。日本企業が計画へ落とし込む際は、費用削減、AI開発、ガバナンスを別々の案件に分けるのではなく、同じデータがどのように利用され、管理されるかを共通の設計図で確認する必要があります。AIの実証実験が増えてから基盤を整えるのでは、案件ごとにデータ接続や権限設定が増え、後の統合が難しくなる可能性があります。



検討の起点として、三つの問いが使えます。

- 必要なデータへ、定義と出所を確認しながら継続的にアクセスできますか。
- AIの試作を本番へ移す際、権限、セキュリティ、更新管理を同じ仕組みで維持できますか。
- データベース運用の自動化で生まれた余力を、ユースケースの改善へ振り向けられますか。

一つ目は、データの所在だけでなく、意味や品質まで把握できるかを問うものです。二つ目は、開発環境では動いたAIを、企業の管理基準に沿って繰り返し運用できるかという確認になります。三つ目では、自動化を導入した事実ではなく、それによって組織の仕事がどう変わるかを見ます。これらを数値や確認可能な運用項目へ置き換えると、刷新の目的が曖昧になりにくくなります。

製品選定では、モデル性能やデモの見栄えだけでなく、既存データの配置、クラウド方針、監査要件、担当者の運用負荷との適合を確かめる必要があります。Oracleの統合型アプローチは、データ、AI、アプリ開発を一つの技術スタックで扱う方向を示していますが、企業ごとに既存資産や採用済みサービスは異なります。どこまで統合し、どこに相互運用性を残すのかを判断することになるでしょう。

最初の実務的な一歩は、進行中のAI案件を一覧化し、それぞれが参照するデータ、アクセス権限、運用担当、障害時の責任を対応付けることです。その表から重複した接続や統制の空白が見つかれば、データベース刷新で優先すべき範囲が具体化します。AI対応力を抽象的な目標にせず、同じ手順で安全に二度、三度と展開できる状態として定義することが有効です。
Oracle AI Worldで確認したい発表の焦点
2026年10月28日のOracle AI Worldでは、Oracle幹部や業界関係者へのインタビューを通じて、エージェント型AIの業務導入、信頼できるデータと自動化の接続、大規模AIに必要なインフラ、セキュリティ、ガバナンスが取り上げられる予定です。theCUBEは、SiliconANGLE Mediaが運営するライブ配信スタジオで、ラスベガスの会場から取材とインタビューを提供します。



発表を見る際は、新機能を個別に追うだけでなく、各機能が同じ運用モデルにつながっているかを確認すると全体像を捉えやすくなります。Autonomous AI Lakehouseはデータの相互運用性、Autonomous AI Databaseは管理の自動化、APEXlangはAIによるアプリ開発、Exadata VM Live Migrationは継続運用を担います。これらがデータからアプリケーションまでの信頼性という一本の軸で結ばれるかが注目点です。

現時点では、Autonomous AI Lakehouseの新機能を含め、イベントで公開される内容の詳細すべては明らかにされていません。企業の担当者は、製品名やAIという表現だけで判断せず、対応クラウド、導入条件、権限管理、監査方法、既存環境との接続、障害時の運用といった質問を用意しておくとよいでしょう。機能が試作から本番への移行をどの段階で支えるのかも確認材料になります。

配信はtheCUBEの専用サイトやYouTubeで視聴でき、終了後はオンデマンドコンテンツも提供されます。関連する企業テクノロジーの分析は、ポッドキャストのtheCUBE PodやBreaking Analysisでも扱われています。なお、theCUBEはOracle AI Worldの有料メディアパートナーです。Oracleを含むスポンサーはtheCUBEおよびSiliconANGLEのコンテンツを編集できないと説明されていますが、視聴者は協賛関係を踏まえて情報を評価するのが適切です。
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