2026/11/05
今更聞けないAI知識
AIはなぜ、間違っていてももっともらしく答えるの?ハルシネーションの見分け方

この記事の要点
AIが事実と異なる内容を生成するハルシネーションを、架空の商品説明を例に解説します。文章の流暢さと正確さを分けて捉え、質問に含まれる前提を見直し、日付・数字・固有名詞を公式資料と照合する習慣につなげます。
目次

丁寧な説明なのに、商品そのものが見つかりません
AIに商品の特徴を尋ねると、機能や使い方が整った文章で返ってきます。ところが、メーカーの公式サイトを探しても、説明に出てきた機能が見つからないことがあります。文章には不自然なところがなく、注意点まで添えられていると、どこを疑えばよいのか迷うのではないでしょうか。
この疑問への一言での答えは、「文章が自然にできていることと、内容が事実に合っていることは別だからです」。AIが事実と異なる内容を生成してしまう現象を、ハルシネーションと呼びます。難しい用語ですが、利用するときに押さえたいのは、読みやすさだけでは正しさを判断できないという点です。
たとえば、架空の商品「ソラノート」という名前を使って、AIに「この商品の録音機能を説明してください」と質問した場面を考えます。これは仕組みを説明するための架空の例であり、実際の操作結果ではありません。「長時間の録音に対応し、会議にも使えます」と返ってきたとしても、その説明だけでは商品の存在も録音機能も確認できません。
生成AIについて、IBMは学習したデータの表現をもとに、新しい文章や画像などを作る技術と説明しています。質問に合う文章を作れることが、その文章に含まれる事実を保証するわけではありません。(出典: IBM)
読み手に必要なのは、すべての回答を最初から疑う姿勢というより、読む段階と確かめる段階を分ける習慣です。とくに購入や仕事上の判断につながる説明では、この区別が役に立ちます。

文章の続きを作る仕組みと、事実の照合は別の働きです
AIの文章がもっともらしく見える理由を知るには、文章を作る仕組みを少しだけ押さえると理解しやすくなります。ここでいうモデルとは、学習によって得られたパターンを使い、入力に応じた出力を生み出す仕組みです。Google Cloudは、機械学習モデルを、学習用のデータに対して処理を行うことで得られるものと説明しています。(出典: Google Cloud)
文章を扱う大規模言語モデルは、大量の文章などから学んだパターンを使います。Googleの用語集では、自己回帰型の言語モデルについて、それまでの出力をもとに次のトークンを予測すると説明されています。トークンは、ここでは文章を処理するときの小さな単位と考えるとよいでしょう。(出典: Google Developers)
身近なたとえとして、商品紹介の文章の型を思い浮かべてください。「特徴」「利用場面」「注意点」の順に説明すると、読みやすい紹介文になります。しかし、その型に沿って文章ができていても、書かれた機能が実在するかどうかは別の確認が必要です。このたとえは、文章の組み立てと事実の確認を区別するためのものです。
先ほどの架空の商品であれば、「録音機能を説明してください」という質問自体に、録音機能があるという前提が含まれています。回答の体裁が整っていても、その前提まで確かめられたとは限りません。具体的な数字や専門用語が入っている場合も、それだけで根拠が増えたとは判断できないでしょう。
つまり、仕組みを知って変えたいのは、回答の受け取り方です。「詳しく説明されているから正しい」と判断する前に、「この説明のどの部分を、何で確かめられるか」と考えると、確認すべき場所が見えてきます。

「うそをつかれた」と考える前に、誤りの種類を分けます
自信があるような文章で間違いを示されると、「AIにうそをつかれた」と感じるかもしれません。ただ、利用上は、意図を想像するよりも、出力のどこが事実と食い違っているかに注目するほうが整理しやすくなります。ハルシネーションという言葉を、人間が意図的にうそをつくことや、人間の幻覚体験と同じ意味で捉える必要はありません。
また、存在しない内容が書かれていれば、すべて問題になるわけでもありません。「架空の文房具の商品紹介を作ってください」という依頼なら、新しい機能や名前を考えることが目的です。同じ文章でも、創作として求めた場合と、実在商品の説明として求めた場合では、評価する基準が変わります。
Googleの用語集は、事実性を、出力が現実に基づいているという性質として説明しています。そのうえで、創作を求める依頼では、現実との一致より創造性を重視する場合があると整理しています。(出典: Google Developers)
架空の「ソラノート」に自由な機能を付ける商品企画の練習なら、実在しない仕様もアイデアの一部になります。しかし、購入候補の商品を調べている場面で同じ説明が出てくれば、確認できない仕様を判断材料にすることになります。問題は、文章が面白いかどうかではなく、依頼した目的に対して事実として扱えるかどうかです。
なお、すべての誤りを一つの言葉で片づける必要もありません。質問の意味の取り違えなのか、提示した資料との食い違いなのか、現実には確認できない情報なのかを分けてみてください。「AIは間違える」で終えるより、「商品名は確認できましたが、この機能の根拠は見つかりません」と整理するほうが、次の確認につながります。

架空の商品例で考える、質問に埋め込まれた前提
ハルシネーションに備えるうえで見落としやすいのが、質問する側の前提です。「ソラノートの録音は何時間できますか」と尋ねると、商品の存在に加えて、録音機能があることも前提になります。この例は架空ですが、商品名の聞き間違いや似た名称の取り違えがあれば、実際の調べ物でも同じ構造の質問になりえます。
ここで「最大十二時間です」と回答されたと仮定します。この数字も説明用に作ったもので、実在商品の仕様ではありません。数字が一つ示されると話が具体的になり、そのまま比較表や購入メモに書き込みたくなるかもしれません。しかし、具体的であることと、出典があることは区別する必要があります。
質問を見直す際の提案は、細かな仕様を尋ねる前に、確認する順番を作ることです。商品名が正式名称と一致しているか、該当する機能が公式資料に載っているか、その機能の条件や数値が明記されているか、という順に見るとよいでしょう。途中で確認できなければ、その先の数字を埋める必要はありません。
AIへの依頼文も、次のように変えられます。これは使い方の提案例であり、正しい回答を保証する指示ではありません。「手元の公式説明文をもとに、録音機能の記載があるか確認してください。記載がなければ、録音時間は不明としてください。一般的な製品の特徴から補わないでください」。
IBMは、生成AIが利用者の依頼に応じてコンテンツを作る仕組みを説明しています。(出典: IBM)利用者側では、その依頼に含める前提と資料の範囲を明確にできます。求める回答を「何時間です」という数字に限定せず、「資料からは確認できません」も受け入れる形にしておくと、根拠のない情報を保留しやすくなるでしょう。

日付・数字・固有名詞から、公式資料と照合します
回答を確かめるとき、文章全体を同じ密度で読み直すと、どこから手を付ければよいか迷います。確認の出発点として提案したいのは、日付、数字、固有名詞です。発売日、対応する機器の名前、利用条件に含まれる回数などは、判断に直結しやすく、公式資料の記述と突き合わせる対象も絞りやすくなります。
たとえば商品説明なら、メーカーの製品ページや取扱説明書を開き、回答にある機能名を探します。似た機能が見つかった場合も、同じ型番の説明か、追加の条件がないかまで確かめてください。名称が似ているだけでは、同じ仕様を持つと判断できません。これは確認方法の提案であり、特定の製品画面や操作手順を示すものではありません。
資料の日付にも注意が必要です。公開日や更新日は、その資料がいつ公表・更新されたかを示します。取得日は、その資料をいつ手元に集めたかを示す日付です。今回の資料では、IBMの記事に二〇二四年八月九日の公開日と二〇二六年十月二日の更新日が記載され、資料の取得日は二〇二六年十一月五日となっています。十一月に取得したことを理由に、記事の内容を十一月の新発表として扱うことはできません。(出典: IBM、提供された資料の取得記録)
AIが回答に出典名やリンクを添えた場合も、リンク先を開いて、その説明を本当に裏づけているかを見る必要があります。実在する資料へのリンクでも、知りたい商品の仕様が載っていなければ、その仕様の確認は終わっていません。出典の表示と、出典による裏づけは別の段階です。
見つからない情報は「不明」として残してかまいません。仕事のメモなら、「確認した公式資料には記載がありません。判断前に担当窓口への確認が必要です」と書く方法もあります。空欄をもっともらしい数値で埋めるより、何が未確認なのかを共有するほうが、後から確認を引き継ぎやすくなります。

明日からは、一つの回答を「下書き」と「確認事項」に分けます
ハルシネーションを知ったあとに変えられるのは、AIを使うか使わないかだけではありません。回答の中で、文章の下書きとして使える部分と、事実の確認が必要な部分を分けられます。たとえば商品紹介の構成や読みやすい言い回しは検討材料にしつつ、機能名、対応条件、数値は公式資料と照合する、という進め方です。これは利用方法の提案であり、作業効果を実測した結果ではありません。
依頼の段階で、資料に書かれている範囲を指定する方法もあります。手元にある説明文の要点を整理したい場合には、次のような入力を試す案が考えられます。実際に操作して検証した例ではありません。
「以下の説明文に書かれている内容だけを使い、商品の特徴を短くまとめてください。本文にない機能や数値は補わず、判断できない点は『記載がありません』としてください。最後に、購入前に確認したい項目を挙げてください」。
このように依頼を具体的にしても、回答が必ず正しくなるとは限りません。Googleの用語集では、モデルの出力を評価すること自体が、品質を測るための過程として説明されています。(出典: Google Developers)利用者の側でも、依頼文を工夫することと、出てきた回答を確かめることを、別々の作業として扱うとよいでしょう。
次にAIから説明を受け取ったら、回答の中から判断に影響する事実を一つ選んでください。商品名でも日付でも、機能の条件でもかまいません。その一つを公式資料と照合し、確認できた内容と、まだ分からない内容を分けてメモします。流暢な文章をそのまま信用するのでも、回答全体を捨てるのでもなく、根拠を確かめながら使える部分を選ぶことから始められます。
