2026/10/29
AIニュース
検索広告の減速をAIで補えるか――Googleが広告付きAI検索を世界展開


検索広告の成長鈍化が迫るAI収益化
GoogleがAI検索への広告導入を海外市場へ広げる背景には、主力である検索広告の成長鈍化があります。親会社Alphabetの第3四半期売上高は1,276億ドルで、前年同期比25%増となりました。会社全体では高い伸びを記録したものの、Google検索の売上高成長率は第1四半期の19%、第2四半期の17%から、第3四半期には12%へ低下しています。決算発表後にはAlphabetの株価が8%下落しました。検索広告は、商品やサービスを探している利用者の意図を捉えやすく、Googleの事業を長く支えてきました。成長率がプラスであっても、その勢いが四半期ごとに弱まれば、将来の収益拡大に対する市場の見方は慎重になります。そこでGoogleが収益源として育てようとしているのが、AIによる回答を組み込んだ検索体験です。
今回の展開は、従来型検索の広告枠を単純にAI画面へ移す取り組みではありません。質問の背景や会話の流れをAIが理解し、回答の一部として関連商品や企業を提示する構造を目指しています。検索結果を一覧表示する画面から、利用者がAIと相談しながら選択肢を絞る画面へ移れば、広告が表示される場面やクリックされる理由も変わります。
Alphabetにとっての焦点は、AI機能によって検索利用を増やすだけでなく、その新しい利用形態を広告売上へ結び付けられるかどうかです。AI開発への投資と既存事業の成長を両立するには、利用者の質問に役立つ回答と、広告主が対価を支払える接点を同じ体験内で成立させる必要があります。今回の国際展開は、その収益モデルを米国中心の試行から、より広い市場で検証する段階へ進める動きと捉えられます。

AI Mode広告の国際展開と新しい広告接点
Googleの最高事業責任者であるフィリップ・シンドラー氏は、AIを組み込んだ検索体験で高品質な広告を、より多くの利用者と検索内容へ拡大していると投資家向け説明会で述べました。AI Modeの広告を海外市場へ展開するとともに、米国では複数回のやり取りを踏まえて表示する広告も広げます。GoogleがAI検索の広告展開地域を世界規模へ拡大するのは、今回が初めてです。複数回のやり取りを扱う広告では、最初に入力された単語だけでなく、その後の追加質問も利用者の関心を理解する手掛かりになります。例えば、漠然と商品カテゴリーを尋ねた利用者が、用途、予算、必要な機能を順に伝えれば、会話が進むほど求める条件は具体的になります。従来の検索広告が一つの検索語句に対応する場面を中心としていたのに対し、AI Modeでは一連の相談過程のどこで提案を示すかが重要になるでしょう。
Googleは2026年5月にも、生成AIモデルのGeminiを活用した広告形式を発表していました。そこには、利用者の質問に応じる会話型の発見広告や、AIが生成する回答に組み込まれるスポンサー付きの推奨情報が含まれます。広告が回答の前後に独立して置かれるだけでなく、検討に必要な選択肢として現れる設計です。
海外展開では、言語や商習慣、商品データの品質によって広告の有用性が変わると考えられます。同じ質問でも、購入時に重視される条件や適切な説明の順序は市場ごとに異なるためです。広告主側には、キーワードの入札管理だけでなく、AIが理解しやすい商品情報、価格、用途、対象顧客などを整備する作業が求められます。Googleにとっても、国や言語をまたいで回答の品質と広告の関連性を保てるかが、収益化の範囲を左右します。

長文化・マルチモーダル化する検索行動
Googleの最高経営責任者であるスンダー・ピチャイ氏によると、検索件数は過去5年間で最も速い前年同期比の伸びを示しました。具体的な成長率は公表されていませんが、同氏はAI機能が検索方法そのものを変えていると説明しています。AI Modeで入力される質問は、従来型検索の平均と比べて3倍の長さです。短いキーワードを並べるより、事情や条件を文章で伝える使い方が増えていることがうかがえます。質問が長くなれば、AIは利用者の目的を詳しく読み取れる可能性があります。「会議用モニター」という入力よりも、部屋の広さ、参加人数、接続する端末、予算まで含む質問のほうが、候補を絞るための情報は豊富です。広告主にとっては、単一のキーワードとの一致だけでは捉えにくかった具体的な利用場面へ提案できる余地が生まれます。ただし、文章が長いこと自体が購買意欲の強さを示すとは限らないため、質問の文脈と検討段階を区別する必要があります。
入力方法も文字だけではありません。世界のAI Mode検索の5件に1件は、音声、画像、文書のいずれかを含むとGoogleは説明しています。月間のビジュアル検索件数も500億件を超えました。利用者は製品名が分からなくても写真を見せられますし、文書を基に必要なサービスを尋ねることもできます。検索の入口が広がれば、広告に必要な情報もテキスト中心から画像や構造化された製品データへ広がっていくでしょう。
企業が注目すべきなのは、検索回数の増加だけではありません。質問が長くなり、複数の入力形式が使われることで、検索が単発の情報取得から相談型の意思決定へ近づいています。広告の役割も、利用者を即座に別ページへ移動させることだけではなく、比較や絞り込みに役立つ情報を適切な時点で提供する方向へ変わると考えられます。

クリック率だけでは測れないAI広告の実力
Googleによると、AI Modeに表示されるスポンサー付き商品リストのクリック率は、広告ではない自然な商品リストとすでに同程度です。利用者調査でも、広告には関連性があると受け止められているとシンドラー氏は説明しました。AI回答の中に広告が表示されても、内容が質問に合っていれば、利用者が選択肢の一つとして受け入れる可能性を示す初期結果です。ただし、クリック率が同等であるという情報だけでは、広告事業としての成果を判断できません。比較対象となる掲載位置、対象商品、利用者層、計測期間などの詳細は明らかにされていないためです。クリック後に購入や問い合わせへ進んだ割合、広告を含む回答への満足度、自然な検索結果への影響といった指標も必要になります。企業が試験導入を検討する際は、クリック率を成果そのものではなく、検討の入口として扱うのが現実的でしょう。
AI検索では、回答画面だけで疑問が解消され、外部サイトへの訪問が不要になる場面も想定されます。その場合、クリック数が少なくてもブランドや製品が候補として認識されることがあります。反対に、クリックが発生しても、AIの説明と移動先ページの内容が一致しなければ、商談や購入にはつながりません。従来の指標を残しつつ、AI回答内での表示、会話の継続、指名検索への波及などをどう評価するかが課題になります。
広告であることが利用者に分かる表示も欠かせません。回答とスポンサー情報の境界が曖昧になれば、短期的にクリックを得られても、検索体験への信頼を損なうおそれがあります。Googleが掲げる高品質な広告を実現できるかは、関連性の高さだけでなく、広告表示の透明性や、利用者が選択肢を比較できる設計によって判断されることになります。

好調な全社業績と検索事業への圧力
Alphabetの第3四半期決算では、検索以外の事業も大きく伸びました。検索を含むGoogle Services部門の売上高は963億ドルで、前年同期比11%増です。Google Cloudの売上高は307億ドルとなり、前年同期比103%増を記録しました。全社売上高が25%増えた一方で、検索広告の成長率が減速しているため、事業ごとの成長速度には明確な差があります。この四半期には、Gemini 4 Argonの提供、Geminiアプリの月間利用者10億人への拡大、Pixel 11シリーズの発売もありました。AIモデル、消費者向けアプリ、端末、クラウドを横断して製品を展開している点は、GoogleがAIを単一サービスではなく事業全体の基盤として扱っていることを示しています。ただし、利用者数や新機能の増加と、安定した広告収入は同じものではありません。
検索広告には、利用者の明確な意図と広告主の需要を結び付けてきた強みがあります。AI検索がその役割を引き継ぐには、回答の便利さを維持しながら、広告を表示できる十分な機会を作らなければなりません。広告を増やしすぎれば回答の読みやすさや信頼性が損なわれ、控えすぎればAI機能の運用を支える収益になりにくいという緊張関係があります。
決算数値から読み取れるのは、既存の検索事業が縮小しているという状況ではなく、成長を続けながらも伸び率が下がっているという点です。そのためGoogleには、従来型広告を急いで置き換えるより、AI Modeで新しい広告接点を増やし、既存検索と併存させる選択肢があります。国際展開は、地域ごとの利用行動や広告需要を見ながら、この均衡点を探る取り組みになると考えられます。

B2Bマーケティングに生じる三つの変化
企業向けマーケティングでは、AI検索広告の普及によって、キーワード、コンテンツ、製品データを別々に管理する方法が見直される可能性があります。AIは利用者の質問に対し、製品名だけでなく、用途、条件、比較軸を組み合わせて回答を作ります。広告主が自社サービスの対象業務や導入条件を明確に示していなければ、質問との関連性をAIが判断しにくくなるでしょう。第1の変化は、広告設計の単位です。短い検索語句だけを中心に考えるのではなく、担当者が抱える課題や、社内稟議までに確認する条件を想定した情報設計が必要になります。機能一覧に加え、どのような利用環境に適するのか、対象外となる条件は何か、比較時に見るべき点は何かを整理することで、会話型検索との接点を作りやすくなります。
第2の変化は、クリエイティブとデータの連携です。音声、画像、文書を使う検索が増えれば、テキスト広告だけでなく、製品画像や仕様情報の品質も結果を左右すると考えられます。マーケティング部門だけで完結させず、営業、製品、法務などが持つ情報を更新可能な形でそろえることが求められます。AIが誤解しにくい名称や説明へ統一する作業も、広告運用の一部になり得ます。
第3の変化は、成果測定です。B2B商材は検討期間が長く、AI回答内の接触がすぐ問い合わせに結び付くとは限りません。クリック単価や件数だけを追うと、初期の情報収集に与えた影響を見落とす可能性があります。AI検索経由の訪問後に閲覧されたページ、資料請求、商談化、指名での再訪までを確認し、既存の検索広告と役割を分けて評価する必要があるでしょう。

日本企業が着手できる準備と検証
AI Mode広告の利用可能地域や提供条件の詳細は、現時点で明らかにされていません。日本企業がすぐ大規模な予算を移す段階ではなくても、会話型・マルチモーダル検索を前提とした情報整備は始められます。広告商品の正式な提供を待ってから準備すると、商品情報の整理や計測設計に時間がかかり、初期検証の機会を逃すかもしれません。着手点は、自社の顧客が検索時に使う質問を見直すことです。製品名を含む検索だけでなく、「どの条件なら導入できるか」「既存環境と接続できるか」「候補をどう比較すべきか」といった相談型の問いを集めます。その問いに対して、公式サイトの情報だけで正確に回答できるかを確認してください。不足があれば、用途、仕様、制約、価格の考え方、問い合わせ先などを整理します。
検証時には、既存の検索広告とAI検索広告を同じ基準だけで比べないほうがよいでしょう。表示回数、クリック率、問い合わせ数といった共通指標に加え、質問の具体性、閲覧ページ、商談の内容などを確認すると、AI検索がどの検討段階で役立ったかを把握しやすくなります。個人情報や機密情報を含む質問が入力される可能性も考慮し、利用データの扱いや社内の確認手順を事前に定めておく必要があります。
広告文だけを調整するのではなく、移動先ページと営業対応まで一続きの体験として確認することも欠かせません。AIが特定の用途に適したサービスとして紹介したのに、サイト上でその用途を確認できなければ、利用者は判断に迷います。検索時の質問、AIによる提案、サイト上の説明、問い合わせ後の回答をそろえることが、成果を判断する土台になります。
当面の具体的な一歩は、問い合わせ履歴や既存の検索語句から代表的な相談を10件程度選び、自社サイトだけで回答が完結するかを点検することです。広告出稿の可否に左右されず実行でき、会話型検索への対応と営業資料の改善を同時に進められます。そのうえで提供地域や計測仕様が明らかになった段階で、小規模な予算による検証へ移るのが妥当でしょう。
